インターネット上でのコミュニケーションにおいては、個人がそれぞれに抱いている社会観や価値観が数派であるかのように認知されてしまうという、「集団分極化」と呼ばれる現象が起こると言われている。本研究においては、先行研究におけるそうした主張を、量的・質的調査の両面から検討していくことを目標としている。 今年度の研究においては、主として量的調査に用いる調査票設計のための先行研究の検討と、調査の実施・分析を主たる課題とし、研究を進めた。その過程で、本研究で明らかにすべき仮説を以下の通り設定し、調査票を作成した。 (1)インターネットが人々に及ぼす影響は、マスメディアに比して限定的である。 (2)それにもかかわらずネットへの接触は、個人にとって都合のいい社会認知を強化させ、自分の意見が「多数派」であるとの認識を強めていく。 こうした仮説に基づきアンケート調査を行った。その結果、自分と同じような趣味の人、違った趣味の人、同じような意見の人、異なった意見の人など、様々なタイプの人間関係の広がりを聞いた項目では、インターネットの利用前後で変化はないとする回答が大半を占めた。他方で、ネット上では、知っている人とだけコミュニケーションするという人の方が、マスコミの情報の誤りに気づきにくいという結果も出た。これは、ネットでの人間関係の広がりが個人の社会観を変化させる可能性を示唆しているが、他方で自分の考えの誤りに気づいたり、自分が間違っているのではないかと不安になるという項目については、有意な関係は見られなかった。 ここまでに得られた知見は、インターネットでの人間関係の広がりは、マスコミから得られる情報を相対化し、個人の社会観を変化させる可能性を持つが、それは「マスコミの言っていることは間違いだ」という、別の偏った認識を形成することに寄与している可能性もあるということだ。このことは従来の理論枠組みを一部で支持するものであり、またそれをより具体的に深めていくという点で、意義のあるものだと言える。
|