インターネット上でのコミュニケーションにおいては、個人がそれぞれに抱いている社会観や価値観が多数派であるかのように認知されてしまうという、「集団分極化」と呼ばれる現象が起こると言われている。本研究においては、先行研究におけるそうした主張を、量的・質的調査の両面から検討していくことを目標としている。 今年度の研究においては、昨年度に行った量的調査の分析を引き続き行い、また量的調査からだけでは十分にくみ取ることのできない点について深い知見を得るためのインタビュー調査を行った。 量的調査の分析からは、メディアへの接触頻度と社会観の関係について、ネットを中心的に見る人と、マスメディアを中心的に見る人の間で違いがあるかを検証した。その結果、両者の間に優位な差は見られなかった。むしろ、ネットもマスメディアも熱心に見る人と、そうでない人の間に差が見られた。 こうした知見を元に行ったインタビュー調査では、対象者がふだんどのようにニュースを見ているか、どのようなソースから情報を得ているかといった点について重点的に質問した。対象となったのはいずれもネットメディアに慣れ親しんでいる若者であり、その意味での代表性は低いが、ネットメディアの具体的な利用行動を知る上では非常に有益な情報が得られた。 インタビュー調査の対象者は、大きく言って「主体的に情報を選別し、ときに発信する者」と「受動的に情報を受け入れ、ときにそれを拡散する者」のふたつに分けられる。前者がマスメディアにせよネットにせよ、やってくる情報をいったん自分の中で消化し、必要とあらば周囲の人びとに伝えようとするのに対して、後者はネット、マスメディアの情報の確かさに不安を覚えつつも、周囲に同じ関心の人がいれば、その情報を伝えるといった行動をとる。また、前者の人びとはニュースや社会問題に対して一定のスタンスを示しており、そのことで周囲と議論になることもあるが、後者の人びとは周囲との衝突を恐れて議論を避ける傾向にあることが分かった。 これらの知見から言えることは、インターネットが個人の社会観に直接影響を及ぼすということはなく、むしろ、ネット上の情報も含め、社会問題について考えを深める機会の有無が、社会観への影響力を左右するということである。
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