研究概要 |
音響信号に含まれる個々の音を新規音イベントとして知覚する際,どのような音響変化が寄与しているかについて,特にラウドネスに変化がなくスペクトル構造が急激に変化する場合においては不明な点が多い。スペクトル構造のみが変化する場合には連続する2つのスペクトル(周波数)定常部間に必ず周波数遷移部分が存在するが,本研究は,スペクトル構造の変化が新規音イベントの知覚をもたらすときの周波数遷移の条件を明らかにすることを目的とする。本年度は2つの実験を行った。両実験とも,音刺激として2種類の周波数の純音,あるいは2種類の共振周波数の複合音の間を周波数遷移でつないだ音響信号を用意した。実験1では,周波数遷移の開始点同士の時間間隔が等間隔となるよう固定した標準刺激,その等間隔性を崩して時間的に逸脱させた比較刺激を比べてどちらが等間隔であるかを判断させ,周波数遷移の持続時間によって正答率がどのように変化するかを調査した。正答率が高いほど,周波数変化後の音が新規音イベントとして明確に検出されていると考えることができる。周波数遷移の持続時間が短い場合は比較刺激の時間逸脱程度が小さくても75%以上の正答率が得られた一方,周波数遷移持続時間が長くなると,時間逸脱程度が大きくても正答率は75%を越えることはなかった。この結果を踏まえ,次年度ではより詳細な計測を行う。実験2では,同様の音刺激で等間隔性を崩したものを6種類用意し,被験者には聞こえた通りのリズムで机を棒で叩くよう教示した。実際に計測したのは叩いた回数のみであり,実験者の意図した通りの音イベント知覚がなされているかを調査するものであった。約半数の被験者は意図した通りの知覚であったが,残りの半数は意図した数と異なる知覚をしていることが判明した。この結果は新規音イベント知覚にとって非常に有益な知見となる可能性があり,次年度もさらに詳細な実験を行う。
|