本研究は地方における「コンパクトシティ」の形成が財政状況にどのような影響を与えるのかについて実証分析で示すことを目的にしている。以上を踏まえ平成21年度には2つの研究を行った。一つは実証分析である。特に本年度は都道府県の道路事業費に着目し、これを新設道路事業費と既設道路維持費に分けた上で費用関数を推定した。いずれも地域の環境変数の一つとしてDID(人口集中地区)人口比率を用いている。なおこの設定はコンパクトシティの形成の度合いを示す変数として想定している。結果として、いずれのモデルにおいてもDID人口比率が有意水準10%以内で有意に事業費を減らす可能性があることを示せた。 もう一つの研究は、更なる実証研究で適切な変数選択を行うための助言を伺う聞き取り調査である。本年度には似たような公共交通体系を持つ隣接都市として富山市と高岡市、この両市のある富山県、政令市として仙台市、市民団体がまちづくりの提言を積極的に行っている盛岡市、更にコンパクトシティの成功都市として取り上げられる青森市に伺った。これらの都市では都市整備担当者がコンパクトシティの形成について財政負担への軽減効果があるものと考えており、都市整備のキーワードに掲げている。調査では、DID人口比率が高いほどコンパクトシティの形成が進んでいると解釈することの妥当性を認めていただくとともに、他の変数も考慮すべきであるとの助言をいただいた。例えば、コンパクトシティの形成度合いとして中心市街地までの一定の移動時間圏内の人口も考慮することや、環境変数として歴史的経緯に関連する条件(高岡市には歴史的建造物が多く簡単に新たな都市整備ができない等)、土地の利用制限の有無、気候等を考慮する必要性を教えていただいた。またいずれの担当者からも存在しているデータであれば必要ならば頂けるという約束をしていただけた。以上の結果は、平成22年度の研究へ繋がるものである。
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