研究概要 |
本研究の目的は,管理会計システムが,もともとは組織に存在しないような状況で,新たに採用され,そして普及して行くプロセス及びその効果について明らかにすることを目的としていた。その結果,次の3点の重要な学術的な貢献が得られた。 1つ目は,従業員が100人に満たない小規模の工場における管理会計の生成を明らかにするための探索的なフィールドワークの結果,採用には会計の専門的知識の重要性や外部の公認会計士や税理士からの知識移転の重要性が明らかとなったことである。品質管理や納期管理の技術とは違い,管理会計・原価計算の知識はその必要性が自発的には認識されず,会計の専門的知識の存在が重要となる可能性が確認された。 また2つ目は,創業10年以内のスタートアップ企業を対象とした大規模郵送質問票調査により,企業が予算を採用する理由として,スタッフ業務の分業の進行が正の影響を,資金管理の分業の進行が逆に負の影響を与えていることも統計的に明らかになったことである。後者は,創業者が会計的知識を持っていない状況を示していると言え,フィールドワークの発見事実は予算という限られた管理会計システムについては支持されていると言える。 そして3つ目は,新しい管理会計システムの採用が組織成果に与える影響についての方法論を構築するため,経理シェアードサービスという仕組みについての採用後の影響を検証するための分析を実施したことである。ケースクロスオーバーという採用前後の比較方法を用い,単純な前後比較ではなく種々の要因を統制した上での管理会計システムの導入成果の検証方法を提示出来たといえるだろう。
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