本研究は、デバイスへの応用が期待されているグラフェン(単層グラファイト)の微細電子構造の解明とその電子構造制御、さらには積層数を制御することによって、新たなグラファイト層間化合物の作成とその電子構造の解明が目的である。 本年度は、良質なグラフェンの育成が可能なグラフェン試料育成装置の建設・改良を行った。グラフェン試料育成装置は高真空または高圧でグラフェンを育成することができる装置となっており、真空度は1.0x10^<-8>Torrであり、Arガスを用いることで装置内を約0.2MPaの高圧な環境を実現できる。本研究では、高真空/高圧下それぞれでグラフェンを育成し、原子間力顕微鏡を用いることによってグラフェンのテラスサイズを評価した。その結果、高圧下で育成されたグラフェンは非常に幅の広いグラフェンが育成されていることを明らかにするとともに、高圧で育成されたグラフェンは理想的なグラフェンに近い電子状態を形成していることを超高分解能角度分解光電子分光装置によって明らかにした。しかしながら、SiC上で育成されたグラフェンは育成されたグラフェンとSiC基板間にグラフェンに類似した結晶構造を持つバッファー層も育成されることが知られており、この構造が本来予想されるグラフェンの電子構造に変調を与えていることを、本研究によって明らかにした。今後、このバッファー層を様々な方法で制御することにより、理想的なグラフェンの電子構造を様々に制御することが可能である。
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