本研究の目的は、βパイロクロア酸化物KOs_2O_6で見られた新奇な相転移の機構を明らかにすることである。平成21年度は、構造の変化を高分解能中性子回折測定により、詳細に調べた。その結果、7.6Kの相転移は、結晶構造が変化しない同形転移であることが明らかになった。また、相転移温度以下で、格子定数の増大すること、K原子密度が広がることなどがわかった。電子系以外で、固体の同形転移が観測された例は非常に稀であり、とくに対称性の高い立方晶で同形転移が観測されたことは、非常に興味深い。平成22年度は、ラットリングフォノンが相転移でどのように変化するかを調べようと試みた。中性子非弾性散乱測定はフォノンを観測する強力な手法であることが知られている。本研究では、東京大学物性研が所有する高エネルギー分解能3軸分光器HERを用いて、ラットリングフォノンの測定を行った。その結果、ラットリングフォノンが3meV付近に観測され、そのピークが相転移温度以下でブロードになっている傾向が得られた。これは、平成21年度の中性子回折実験により得られた、K原子密度が相転移温度以下で広がっているという結果を含めて考えると、ポテンシャルの形状が変化したことを示唆しているのではないかと考えられる。また、ピークがブロードになるということは、低エネルギー領域に状態が増えたと考えることができ、比熱の温度変化にも対応する結果である。このように、今回得られた結果は、新奇な同形相転移がK原子のラットリング運動と密接に関連していることを示唆している。
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