赤方偏移zが6を超える初期宇宙は、宇宙再電離や初代天体形成の現場として宇宙進化の極めて重要な時代であることが、近年の理論・観測の双方から示唆されている。本研究は大規模な探査観測によって、この時代の有用なプローブである高赤方偏移クエーサー天体の探索を行うことを目的としている。当該年度にはまずパイロット探査領域(南銀極高緯度天域)から、慎重に構築した選択基準により100天体ほどのクエーサー候補天体を抽出し、9月にオーストラリア・Siding Spring観測所の2.3m望遠鏡に観測時間を獲得して、可視光撮像フォローアップ観測を行った。さらに10月には南アフリカ・IRSF 1.4m望遠鏡を用いて、近赤外線波長帯で同様の観測を実施した。取得データの解析を行った結果およそ40天体を最も確かちしい候補天体として抽出することに成功し、平成22年度に口径8mクラスの大望遠鏡を用いて最終の分光同定観測を行うべく、観測申請を行っている。一方で北銀極高緯度天域に本格的な広域探査領域を設定し、1月から3月にかけてニュージーランド・MOA 1.8m望遠鏡を使用いて、およそ100平方度に渡る大規模な可視光撮像観測を実施した。現在取得したデータの解析を行っており、この中から候補天体を抽出し、さらに平成22年度にはIRSF望遠鏡などによる近赤外線観測を行った上で、最終の分光同定観測を行いたい。発見された高赤方偏移クエーサーは詳細な分光フォローアップ観測により、宇宙再電離の進行、ブラックホールの形成と母銀河との共進化など、初期宇宙に関する非常に重要な観測的証拠を与えることは確実である。
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