1. スメクチック薄膜の形成、及び超薄膜の形成キネティクスの解明: 代表者らが以前に行ったスメクチック超薄膜形成に関し、より詳細な実験を行った。まず既存の可動枠を用い、液晶をバルクのスメクチック相の温度で引き伸ばし、厚さ10μm程度のスメクチック薄膜を形成した。次に温度を0.1℃/分以下でゆっくり上昇させたところ、バルクと同じ温度で相転移し、等方相の薄膜となった。この場合薄膜状態を支える層構造がなく、実際に膜厚は大きく揺らいでおり、薄膜状態は不安定であると推測される。しかし本系では水-液晶界面に界面活性剤単分子膜が存在するために、水-油-界面活性剤3成分系の膜のように安定化されていると考えられる。更に昇温を続けたところ、突然等方相がdewettingにより周囲の枠に吸収され、スメクチックの超薄膜が形成されることを見出した。これは薄膜の構造が「表面の安定化層+油」であるよりも、「(10分子層以下の)表面秩序化超薄膜」を作る方がエネルギー的に安定であることを示している。また温度上昇とともに1分子層ずつ薄くなる過程が観察されるが、これは空気中の膜ではごく一部の液晶でのみ起きうることが知られている。以上のように、水中液晶自己保持膜における超薄膜形成過程を直接観察により解明し、その物理的機構に関し示唆を得るとともに、空気中の自己保持膜との違いを見出すことができた。 2. 界面接触法の装置構築: シリンジポンプ、シリンジ、温度調節器、ヒータなど必要な物品を購入し、また温度制御を行うための金属の容器を設計し、特注した。これらを組み合わせ、精密な温度制御下で液晶及び水相界面位置を正確に制御することに成功し、膜厚の制御及びその顕微鏡観察・測定など必要な性能が得られることを確認した。時間の都合上上記1)の実験を優先し、本装置による本格的な実験は平成22年度に行うこととした。
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