1.マイクロキャピラリーを用いたスメクチック水中液胞の形成 これまで用いてきた固体枠中の平らな液晶薄膜系では、枠付近での膜厚の増加が、特に相転移における相の形成・成長に影響するなどの問題があった。また四角い枠の一辺のみを可動としていたため、引き伸ばしにおける膜の変位が不均一であった。そこでより等方的かつメニスカスの影響が少ない液晶液胞の形成に取り組んだ:マイクロキャピラリー(外径~500μm)先端に液晶を塗布し水中に位置し、シリンジポンプによりキャピラリーに水を少しずつ注入することにより、先端に水中液晶液胞を形成することに成功した。液晶がスメクチック相を示す温度においてスメクチック薄膜からなる液胞を、等方相となる温度で等方相の液胞を形成出来た。いずれも膜厚は10μmのオーダであり、膜の挙動は平らな液晶薄膜系と同様であった。2.スメクチック水中液泡における相転移 作成した液胞において、温度変化によるスメクチック⇔等方相転移を観察した。その結果、相転移キネティクスに対する膜厚不均一の影響が減少し、等方相あるいはスメクチック相の形成・成長ダイナミクスの詳細な観察及び解析が出来た。また平らな膜における研究と同様に、スメクチック数分子層からなる超薄膜への転移も確認することが出来た。この顕微鏡観察の結果から、液晶液胞が膜厚測定にも有用であることが示された:液胞では、平らな膜と異なり観察面(焦点面)に対し膜の傾きが0-90度まで連続的に変化している。そのため膜の複屈折によるリターデーションが、連続的かつ大きく変化する。この変化を理論と比較することにより、容易に膜厚を決定できる。また膜が垂直になっている端の部分では、超薄膜の状態でも偏光顕微鏡観察が可能であった。以上、水中液晶液胞系が液晶薄膜の研究において有用であることを示し、実際に相転移の研究や膜厚測定に適用した。
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