研究概要 |
天文学において星までの距離は天体の大きさなどの物理量に直結する非常に重要な量である。星の進化段階末期にあるミラ型変光星では、その変光周期と明るさの間に比例関係が知られており、この関係は星の距離を知る指標として利用できる。この指標の精密な較正を行うためにVERA電波望遠鏡を用いて高精度位置天文VLBI観測を行ってきた。ミラ型変光星周辺の水メーザー電波源を1カ月間隔で2年間観測し、年周視差を測ることにより距離を決定する。本申請の研究期間に、年周視差が計測された天体数はそれまでの2天体から6天体ほどに増えた。また現在でも多くの星を引き続き観測中である。これらの成果により、周期光度関係確立のためのデータが揃いつつあり、既に予備的な結果が得られている。天文学会などで報告している。微視的な視点からの成果として、観測した星周辺のガスの運動の様子なども同時に明らかになり、精密な距離を利用する事によって観測したミラ型変光星の半径や明るさ、温度などの信頼性の高い物理量が得られている。一方、銀河系全体のスケールを考えた巨視的視点からは、観測した星の銀河系内での回転運動などを得ることができ、その星が銀河円盤の厚い成分に属することなどを明らかにしている。得られた周期光度関係の予備的結果と、既存のデータに基づいて整理した多くの星の視線速度、固有運動、赤外線での実視等級などの情報から、およそ300天体の銀河系内ミラ型変光星について6次元動力学情報が整理された。これは現在進展している銀河系の動力学シミュレーションと突き合わせる良いサンプルとなる。本申請研究の成果として2件の論文(Nakagawa et al 2008, Nyu et al 2011)が日本天文学会の査読付き雑誌に掲載されている。
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