本研究の目的は、原子核の対相関が核分裂に与える影響を調べ、原子核の崩壊過程を予測する数値計算コードを開発することである。その第一段階として核エネルギー準位密度を求める新しい計算コードの開発を行った。核エネルギー準位密度は中性子捕獲断面積の予測や重イオン反応など様々な核反応シミュレーションを行うために必要なデータの一つであり、次世代の原子炉開発には欠かせない情報の一つである。開発された計算コードの特徴は、対相関力の効果とともに殻効果も正確に取り扱うことができる点であり、従来の現象論的に導出された計算手法と比べさらに信頼性の高い準位密度の計算を可能にした。これにより核反応シミュレーションの予測精度向上につながった。また、ウランのような重い原子核において核分裂バリアが作り出されるメカニズムを理論的に調べるためのSkyrme-Hartree-Fock法を基に計算コードの開発を行った。開発された計算コードは原子核の四重極変形と八重極変形を考慮しており、非対称核分裂の計算も可能にしている。さらに陽子・中性子以外にラムダ粒子という不純物を原子核内部にもぐりこませることができるよう計算コードの拡張を行った。ラムダ粒子を核内に入れて核分裂を調べることは、これまで行われていない独創的なアイディアである。これにより、原子核内部の陽子・中性子が核分裂中にどのような振る舞いをしているかをより詳細に調べることが可能になり、核分裂バリアが作り出される微視的なメカニズムの一部を解明することができた。
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