本研究の目的の一つは、原子核の対相関の効果を考慮した新しいモデルで、核エネルギー準位密度(以下、準位密度)の数値計算コードを開発し、高精度の原子核崩壊・反応モデルを構築することである。本年度(平成22年度)は、前年度の研究期間で開発した新しい準位密度計算コードを用いて、様々な原子核の準位密度とその予測精度の検証を行った。その結果、従来型の準位密度計算コードと比較して、より正確に中性子共鳴間隔の実験データを再現することに成功した。また、新しい計算コードで得られた準位密度は、これまでのモデルと比べて正確に原子核の中性子吸収断面積の実験データを再現していることが分かった。この結果、高精度の原子核崩壊・反応モデルを構築することができ、放射線を用いた核物理基礎研究や材料・生命科学の分野に貢献することが今後期待できる。 もう一つの研究目的である原子核の核分裂バリア形成メカニズムを、ラムダ粒子を用いて手法で検証した。前年度に開発した1個のラムダ粒子が原子核に入った場合の核分裂計算コードを、2つのラムダ粒子が入ったダブルラムダハイパー核計算コードに拡張した。原子核中の2つのラムダ粒子の軌道を調べ、核分裂が起きている際の核子の振舞いをより詳細に調べることを可能にした。その結果、核分裂バリア形成の微視的なメカニズムの一部を解明することができた。この研究成果は、原子炉内に存在する不安定で寿命の短いマイナーアクチノイドの核分裂崩壊率の高精度予測に貢献することが期待できる。
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