研究概要 |
近年、一部の超新星残骸から短時間で強度変動するシンクロトロンX線が発見され、超新星残骸の衝撃波後方では星間磁場(1~10μG程度)が100倍以上にまで増幅されることが示唆されている。増幅機構の候補として「宇宙線加速に伴う非線形効果」が考えられているが、他のSNRでは同様の現象が見られないため、明確な結論は得られていない。一方、「周囲の星間雲と衝撃波の相互作用」を増幅の起源とする別のシナリオも提案されており、現時点で得られている観測事実はむしろこちらを支持している。 今年度は、上記をさらに定量的に確かめるため、分子雲と相互作用している超新星残骸(およびその一部の領域)と、相互作用していない超新星残骸のそれぞれについて磁場増幅の証拠の有無を調査した。具体的には角度分解能に優れるChandra衛星のデータを用い、シンクロトロンX線強度の時間変動を確認した。その結果、周囲に分子雲が存在しないSN1006では約10年間での変動が10%未満、Tychoでは分子雲との相互作用が確認されている東側の衝撃波でのみ、15%程度の強度変動が確認された。これは、0.5mG程度に磁場が増幅されている可能性を示唆する。さらに分子雲との強い相互作用が見られるRCW86北東部の解析を慎重に行っており、来年度も継続する予定である。その他、星間雲との相互作用が確認されている複数の超新星残骸(IC443,W49B,G359.0-0.5)から、異常に強い「放射性再結合連続X線」を発見した。このX線の検出は、プラズマの電離が電子の温度から予想されるレベルよりもはるかに進行した特異な状態にあることを意味する。研究の結果、超新星爆発が起こる前の星の周辺に存在していた星周物質と衝撃波の相互作用が特異なプラズマ状態に関与していることが明らかになった。
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