近年、一部の超新星残骸から、短時間で強度変動するシンクロトロンX線が発見され、少なくともそれらの超新星残骸の衝撃波後方では星間磁場(1~10μG程度)が100倍以上にまで増幅されていることが示された。増幅機構の候補として「宇宙線加速に伴う非線形効果」が一般に受け入れられているが、「周囲の星間雲と衝撃波の相互作用」を起源とする別のシナリオも提案されている。前年度の研究において、分子雲が付随しない低密度星間空間中に存在する超新星残骸について詳しく調査したところ、磁場増幅の兆候はほとんど得られなかった。現時点では、観測事実は後者のシナリオをより強く支持する。 今年度は、多重超新星爆発などによる効率的な宇宙線加速の存在が示唆される大マゼラン星雲のスーパーバブルに注目し、非熱的X線の探査を行った。超新星残骸やスーパーバブルなのどの広がった天体からの硬X線検出には、高い感度と安定したバックグラウンドを有する「すざく」が最も適する。そこで私は、先行研究において非熱的X線の存在が報告されていたN11およびN51Dの2天体を「すざく」で観測し、詳細なスペクトル解析を行った。その結果、いずれの天体からも有意な非熱的X線は検出されず、上限値でも過去に報告された値よりはるかに低いことが判明した。強い磁場による短時間での強度変動も疑われたが、先行研究と同じデータを再解析したところ、非熱的X線は全く存在しないことが明らかになった。過去の誤った結果はいずれも不正確なバックグラウンドの見積りに起因すると考えられる。
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