研究概要 |
水の特異性を利用した効率的有機合成法の確立を目指し、π-ルイス酸性を示す白金触媒を用いて、アルキンへの水の付加を鍵段階とする水中環化反応の検討を行った。まず、プロパルギルアルコールを出発原料として、methyl2-(prop-2-yn-1-yloxy)acetateを調製しこれを基質として検討を行った。計画通りに反応が進行すれば、アルキン部位への水の付加によりビニルアルコールが生成し、次いで分子内のエステルのカルボニル炭素を攻撃し目的生成物である2H-pyran-3,5(4H,6H)-dioneが生成するはずである。これは、水の効果により基質子のコンフォメーション変化がおこり、反応点同士が接近するため互変異性化よりも早くカルボニル炭素への攻撃が起こり、環化反応が進行すると予測したためである。まず、水中でPtCl_2やK_2PtCl_6を触媒として反応を行った。しかし、種々の条件検討にもかかわらず、目的とする環化体は全く得られず、定量的ではないが原料回収となった。基質や触媒が水に溶けず、反応の効率が極端に悪くなっていると考え、界面活性剤やβ-シクロデキストリン、クラウンエーテルなどの添加剤を検討したが、アルキンへの水の付加により生成するケトンすら得られないという結果を得た。そこで以前の研究をもとに、水-有機溶媒二相系による反応を試みた。水と混和しやすいメタノールから疎水性のヘキサンまで様々な有機溶媒を検討したが、これらの場合でも目的とする6員環生成物は全く得られなかった。水溶性配位子であるtpptsとPtCl_2から調製した水溶性白金錯体を用いて反応を行ったところ、目的の環化は得られなかったが、アルキン部位と水が反応したケトンが22%生成した。以上のように当初の計画をすべて検討したが、現在のところ目的であった水中環化反応は実現できていない。水中での反応ではないものの、PtCl_2触媒を用いることによるビニルシランの新規反応を見いだし、その反応の有用性と適用範囲の探索を行った。 今後の計画として、水中での環化反応を検討するとともに、水中でのカチオン性白金触媒を用いる反応の開発の可能性についても検討する。
|