研究概要 |
水の特異性を利用した効率的有機合成法の確立を目指し、π-ルイス酸性を示す白金触媒を用いて、アルキンへの水の付加を鍵段階とする水中環化反応の検討を行った。まず、プロパルギルアルコールを出発原料として、methyl 2-(prop-2-yn-1-yloxy)acetateを調製しこれを基質として検討を行った。計画通りに反応が進行すれば、アルキン部位への水の付加によりビニルアルコールが生成し、次いで分子内のエステルのカルボニル炭素を攻撃し目的生成物である2H-pyran-3,5(4H,6H)-dioneが生成するはずである。これは、水中では疎水性相互作用が働き、分子のコンフォメーションが変化するため、より環化しやすくなると予想したためである。通常有機溶媒中であれば、互変異性がはるかに進行しやすいが、水中においてケト-エノール互変異性と環化のどちらが速く進行するかという問いを検証するものであった。しかし、予想に反して得られてきた生成物は、メチルケトンのみであり、環化体は全く得られなかった。界面活性剤など種々の添加剤や、水-有機溶媒二相系反応場も検討したが、目的の環化体は得られなかった。そこでさらなる水中反応を検討すべく以下の検討も行った。本反応は、水中でアルキン部位が白金により活性化され、水の付加とそれに続く互変異性によりケトンを与えたが、この反応機構を基に、基質としてアルキンではなくアルケンを用いれば系中で白金カルベン種を発生できるのではないかと考え検討を行った。しかし現在のところ、残念ながら白金カルベン種の確認には至っていない。その他、白金を用いる反応の検討の結果、有機溶媒中だが、one pot反応の構築およびアルキンからのα,β-不飽和ケトンの合成法を見いだした。
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