近年、ナノメートルオーダーの微細な構造をもつ物質(ナノ物質)が新たな電子デバイス・エネルギー変換材料として注目されている。本研究では、半導体ナノワイヤなど新規ナノ物質の結晶構造を制御する指針を得るため、原子レベル表面構造とナノ構造の関係を、非経験的な理論計算(第一原理全エネルギー計算)により明らかにする。今年度は、V族元素(アンチモン、ビスマス)の表面吸着を通して原子層積層欠陥を制御する可能性について、代表的な化合物半導体であるGaAsを例に調べた。まず、結晶中と同じ周期を持つ理想的な(-1-1-1)表面(1×1相)について、表面のヒ素原子をSbやBiに置換した場合、積層欠陥の入りやすさがどのように変化するのか、全エネルギー計算により調べた。その結果、As、Sb、Biの順に原子半径が大きくなるに従って、積層欠陥が入りやすくなることがわかった。特に、SbやBiでは、正常な結晶構造よりも積層欠陥が安定になるという逆転がみられた。これは、原子半径と積層欠陥の安定性との深い関連性を示しており、ナノ構造制御の観点から興味深い結果である。反対に、2×2トライマー終端構造などで吸着ヒ素をSbやBiに置換した場合、積層欠陥の安定性にはほとんど変化が見られなかった。吸着原子は結晶格子の外側に位置するので、原子の大きさからくる効果が小さくなったものと考えられる。以上の結果から、V族元素吸着が積層欠陥に与える影響は、吸着により生じる表面構造により大きく変わるので、V族元素の導入方法を詳細に検討することが、構造制御を実現する上で重要になると考えられる。
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