本研究は、強ひずみ加工により作製されたバルクナノ結晶粒材料の引張変形挙動に及ぼす粒界方位差、粒径分布、転位密度の影響を明らかにすることを目的として行った。99.99%純アルミニウム(4N-Al)に対して、圧延と繰り返し重ね接合圧延(accumulative roll-bonding : ARB)を組み合わせて種々のひずみ量の加工を施すことにより、大角粒界の割合が種々異なる材料を作製した。さらに、それらの試料に対して低温長時間の回復焼鈍を施すことにより、粒内転位密度を低下させた試料を作製した。主に小角粒界からなるサブグレイン組織を有する材料では、引張変形時に連続的な降伏挙動を示したのに対して、大角粒界の割合が高いナノ結晶粒材料では、通常純アルミニウムでは見られることのない降伏点降下現象が明瞭に発現することが観察された。降伏点降下現象の発現を支配する因子の一つとして、試料中の初期可動転位密度が低いことが考えられる。大角粒界が大部分を占めるナノ結晶粒材料では、粒界での転位の回復に起因して可動転位密度が低くなっていること、あるいは周囲の結晶粒からの拘束によって転位源の活動が困難になっていることなどの原因により、初期転位密度が極端に低くなっており、引張変形時に降伏点降下現象を示したと考えられる。一方、小角粒界からなるサブグレイン組織では、サブバウンダリを構成する転位が変形時に可動転位として働いたために、連続降伏を示したと理解できる。平成22年度は、こうした議論を検証すべく、より詳細な実験を進めていく予定である。
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