本研究の目的の一つに、液晶の多次元光波制御配向の実現を可能とする3次元ベクトルホログラム記録と呼ばれる手法を、より自由度の高いものへと拡張することがあった。これを実現するため、本年度は3次元ベクトルホログラム記録における記録光の波長と形成される液晶分子配向分布の関係を詳細に検討した。比較的高解像度であることが知られている高分子液晶と低分子液晶の相溶した複合体液晶中へ、波長の異なるレーザー光源を用いてそれぞれ3次元ベクトルホログラムを記録し、その再生特性を観測した。この結果と、異方性媒質中での偏光干渉の理論及び数値電磁解析法により得られた再生特性のシミュレーション結果との比較検討から、記録光の波長を短くすることで3次元ベクトルホログラム記録における重要なパラメーターの一つである厚さ方向への構造の周期を微細化できることを明らかにした。 また、これまで申請者は、異方的フォトニック構造の光学特性の計算に、有限差分時間領域法と呼ばれる電磁数値解析手法を用いていたが、本年度はより解析的にその特性を明らかにすることを目的とし、結合波理論を異方性回折格子の解析へ適用することを試みた。光波の偏光を考慮しない一般的な結合波理論を、固有な二つの偏光間での結合を考えることで偏光の回折にも適用できるような拡張を行なった。有限差分時間領域法による計算結果との比較から、今回提案した理論の適用条件が明らかとなった。本手法を用いることで、液晶分子配向分布による異方的フォトニック構造を用いたデバイスを設計するための有効な知見が得られるものと考えている。
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