本研究では、ゲノム情報などを元にタンパク質を得て、そのタンパク質を細胞内に直接導入し(プロテオインジェクション)、細胞応答を評価することによりタンパク質の細胞内機能を総合的に解析するという、新規細胞内プロテオーム解析のプラットフォームを構築することを目的としている。本年度は、プロテオインジェクション条件の検討を行うことにより導入の高効率化を目指し、またより詳細な機能解析法開発への展開を行った。サンプル作製条件、インジェクション圧、キャピラリーの形状等を検討することにより、初年度には数%であったタンパク質導入成功率が23%まで向上した。またキャピラリー内のタンパク質濃度を変化させることにより、定量的にタンパク質を標的単一生ES細胞内へ導入する技術を確立した。タンパク質のES細胞への定量的インジェクションは本研究によって世界で初めて実現したものである。さらに、核移行シグナル付き蛍光タンパク質を細胞質にプロテオインジェクションした後、核内の蛍光が徐々に強くなっていく様子を動画として撮影することに成功した。またES細胞の未分化能維持に重要な役割を果たしていると考えられる転写因子、Oct3/4、Sox2、Nanogの構造遺伝子をクローニングし、蛍光タンパク質AcGFPとの融合タンパク質の作製を行った。発現ホスト種や誘導条件を検討し、融合タンパク質の可溶化発現に成功した。今後、これらのタンパク質を用いた詳細な生細胞内プロテオーム解析が期待される。 以上の結果から、タンパク質を機能を保持したまま直接標的単一生ES細胞へ導入する技術開発に成功し、これを利用した細胞内プロテオーム解析のための基礎技術を確立したと結論した。
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