本研究は、雷放電に伴う電磁波放射(雷空電)を測定し、雷活動(位置と規模)を単体でモニタする小型軽量なポータブルシステムの開発を研究目的とする。本年度は主に、雷空電の計測周波数帯域と計測SN比環境の推定精度への影響について、不均質異方性媒質としての電離層の雷空電伝搬への影響を厳密に考慮した理論計算波形を用いて検討を行った。その結果、数Hz~1GHz程度までの非常に広い周波数帯域を有する雷空電に対し、一部の周波数帯域(1~10kHz)を用いて位置推定を行っても、中緯度地方において距離は最大約10km程度、方位は0.1度程度変化するのみで推定可能であるということが分かった。SN比に関しては、遠方の落雷が対象であるほど距離推定に対するSN比耐性が強いということが分かった。これは、電離層反射波を用いて距離推定を行っているためである。また、従来雷空電の電磁波観測において未知物理量として扱われてきた放電速度に関連する物理量を周波数スペクトルから推定できることを理論から導出し、さらに、その情報を用いて帰還雷撃電流モーメント推定への応用に成功した。これらの雷空電に対する理論解析結果は、来年度に製作するシステムに対し、計測周波数帯域、電磁界センサと受信機の雑音レベルの決定など、システム仕様を決定する上で非常に重要な結果となった。また、本システム開発のための仕様決定だけでなく、特に雷撃電流モーメント推定は、電磁界観測から放電速度に関連する物理量を提供できることを新たに提案しており、雷放電物理に対しても意義のある結果が得られたと考えられる。 来年度は、上記の理論解析結果を踏まえて、システム開発と評価を行い、さらに雷空電伝搬解析に対して、未だ明らかになっていない放電の向きに対する波形特徴について理論解析を行う。
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