研究概要 |
ベトナムでは急速な都市化に伴い,水環境の悪化が深刻化している。特に大都市を抱える流域では,郊外・農村部の都市化に伴い,栄養塩収支のダイナミックな変容が予想される。本研究では,ベトナム北部Nhue-Day川流域を例に,郊外・農村部における都市化に伴う栄養塩収支の変容を明らかにすることを目的とした。当該年度では,郊外集落におけるリンおよび窒素のマテリアルフローを構築し,1980~2010年におけるフローの変化および廃棄物・排水管理および地域資源利用形態の変容を明らかにした。さらに,マテリアルフローモデルの流域各地区への拡張を目指し,栄養塩収支に影響を与え、都市化による変化を示す社会・経済統計データとして,人口密度,畜産頭数/人,農地面積/人などを抽出し,これらにより流域内各地区を都市部,農村部,特に畜産が盛んな農村部,特に農業が盛んな農村部に分類した。さらに,モデルで特に感度が高かった一部の畜産に関する情報については,地域分類ごとにインタービュー調査を行うことで整備した。以上より,モデルを流域全体の各地区に拡張・適用することで,流域内の都市化に伴う郊外・農村部の栄養塩収支構造の変化の解析を試みた。その結果,同流域全体における1980年から2010年までの水・土壌系へのリン流出量は、農地面積、単位面積当たり化学肥料使用量、家畜頭数、および人口の増加が主な要因となり、約160%増加したと推計された。また,畜産廃棄物発生量および農業利用割合が、リンの地域循環に大きな影響を与えることが示唆された。2030年までの予測では、現在の傾向が続いた場合、農地面積・家畜頭数の減少と化学肥料投入量の増加が主な要因となり、農業での域内リン自給率は減少し,リン流出量は現在より約260%増加すると予測され,これを減少に転じさせるためには化学肥料の使用量抑制が不可欠であることが示唆された。
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