研究課題
本研究の目的は、歴史都市・京都の街並み景観に焦点を結び、「関係性のデザイン」の視点からみた景観のデザイン原理を明らかにし、その景観に潜む美的秩序を明らかにすることである。本年度は、洗練された京都の伝統的街並みの関係性のデザインの背後にある類似と差異のネットワークの仕組みについて、定性的・定量的な特徴を解明し、京都らしい景観の特性の一端を明らかにするため、次の研究を遂行した。(1)街並みの景観のコードの作成:京都の伝統的街並み(祇園新橋・嵯峨鳥居本・伏見南浜の街並み)について現地調査を踏まえて作成した連続立面図を"屋根"や"格子"といった慣習的な建築言語に基づいて分割することにより、個々の領域やそれらの部分集合を、街並み景観を構成する記号として抽出し、選択可能な項のレパートリーから成る選択体系網(system network)として街並みのコードを作成した。(2)記号のネットワークとしての街並み景観の記述手法の開発とデータベースの構築:人工知能や知識工学の分野で開発された知識表現の方法であるCLOSを導入し、街並み景観における諸要素のネットワークを記述する手法を開発した。CLOSによるプログラムでは、連続立面図を分割して得られた領域をオブジェクト(object)として定義し、オブジェクト間に、階層関係、部分-全体関係を定義することにより、京都の街並みにおける201の建物のファサードを、互いに関係付けられた3716のオブジェクトの集合として記述し、データベースのプロトタイプを構築した。(3)街並み景観における関係性のデザインの統辞論的分析:構築したデータベースから様々に情報を取り出し、記号の分布状態を分析することにより、京都の街並みには限られた数の記号群が共有されており、多様に見える街並み景観がその中から選択された記号群の変形・組合せによって実現されていること、その結果、類似と差異が重層する魅力的な景観が形成されていることを明らかにした。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
日本建築学会計画系論文集
巻: Vo.75, No.652 ページ: 1507-1516