研究概要 |
本研究の目的は,末梢血中を循環する細胞を動員して異所性の組織形成を誘導する新規のバイオマテリアルを創製することとした.その第一段階として,異所性の血管新生の制御に焦点を当てた.昨年度は,神経ペプチドの一種であるSubstance P (SP)をバイオマテリアルであるゼラチンハイドロゲルと組み合わせて徐放体を作製し,それをマウスへ移植することにより,効率よく血管新生が誘導されることを見出した.当該年度においては,上記の血管新生部位へ血管新生誘導能をもつ血球の一種である顆粒球が集積していることを組織学的解析により見出した.さらに,生体外における実験により,顆粒球はSP刺激に応答して血管新生を正に制御する増殖因子である血管内皮増殖因子(vascular endodlelial growth factor, VEGF)の発現量を有意に増加させることも明らかとした.さらに,生体外でのSP刺激は,顆粒球の細胞外マトリックスの構成要素であるフィブロネクチンへの接着も亢進させた. これらの結果より,新規のSP徐放体による血管新生の誘導は,血中からの顆粒球の動員および活性化を介している可能性が示唆された.本研究成果は,細胞移植を伴わずに体内の細胞の動きを制御して組織再生を誘導する新たな方法を提案しうる点で再生医療分野において意義深い.
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