本研究より得られた主な知見は以下のとおりである。 1.沖縄本島東岸の河口干潟を対象として、底質性状が砂質から泥質まで異なる13地点で調査を実施した。21年度のデータと合わせて底質と流速の関係を解析した。全体的には高流速が高い頻度で観測される地点で底質の細粒分含有率(以後含泥率とする)が低い傾向であったのに対し、その頻度が低い場では含泥率が非常に広くばらついた。また、この含泥率一流速関係において含泥率が急激に変化する流速の閾値の存在が示された。 2.室内実験において人工的に含泥率の異なる底質を作成して馴養し、粘着力の発現に及ぼす含泥率の影響を検討した。その結果含泥率が3-5%程度で急激に上昇することが示され、含泥率一流速関係における流速低下に伴う含泥率の急激な上昇に、底質の粘着性発現が影響していることが示唆された。 3.直上流速が比較的小さく底質含泥率との関係が大きくばらついた領域の複数地点を対象に、40-50cm程度の底質コアサンプルを採取し鉛210による堆積速度の推定を行った。その結果、堆積速度に大きな違いがみられるとともに、それが異なる底質性状の形成にも結びついていることが示唆された。 4.沖縄本島内の16の河口における調査から、河口干潟の底質性状に及ぼす流域環境の影響を明らかにした。とりわけ、森林や農地由来の有機物・栄養塩の流入が河口干潟底質の化学的性状に強く反映されていることを明らかにした。 5.含泥率の急激な上昇/低下をもたらす流速の閾値は、干潟生態系保全のための底質性状の安定的維持を目指すうえで考慮されるべき重要な指標値になると考えられる。一方で、流速が小さく堆積過程が卓越する干潟域では、より大きな空間スケールを視野に流域環境の底質性状への影響も加味して生態系管理がなされる必要がある。
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