本研究では、日頃の生活で冷暖房を過度に使用しない居住者と、冷暖房に依存している居住者について、自宅における熱環境の実測を行なうとともに、居住者の温熱感・快適感に関する被験者実験を実施して、日常で曝露されている熱環境と温熱感の対応関係や、内発的な熱環境調整行動によって、どれほど温熱快適感が得られているかを明らかにすることが目的である。 本年度は、特に夏季において、大学生10名を被験者として日常の住まい方について質問紙による事前調査を行なうとともに、自宅において滞在時間が最も長い室の熱物理量の実測、在室時における着衣と活動の状態について調査を行なった。 その結果、被験者が実測対象室に滞在している時間帯における室内空気温度の平均値は26~31℃の範囲であり、平均値を比較すると5℃の差が見られた。室内空気温度の平均が30℃を越えている被験者は、滞在時間帯に対する冷房を使用していた時間の割合(冷房使用時間率)が15%未満であるのに対して、室内空気温度の平均値が26℃程度の被験者は、在室時にはほとんど冷房を使用していた。 被験者10名には、前述の熱物理量と着衣・活動の状態の記録のほかに、人工気候室を用いて温熱感の申告調査を実施した。室内の目標温度を実験開始時に26℃としておき、15分ごとに1℃上昇させる実験を行なったところ、冷房使用時間率が15%未満の被験者は、冷房使用時間率が80%以上の被験者に比べて、暑い側(「やや暑い」・「暑い」)の申告を得る温度が1~4℃程度高いことが明らかになった。 以上のことから、冷房使用のない熱環境を受け入れられる温熱感が培われるメカニズムの解明していくことや、個々人の温熱感を考慮した熱環境計画の重要性が示唆された。
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