本研究では、環境負荷の少ない非鉛強誘電体材料として注目されているマルチフェロイックBiFeO_3(BFO)薄膜の基礎物性の解明を行った。本年度の実績概要は以下のとおりである。 1. イオンビームスパッタ法(IBS)を用いた巨大c/a比を有するBFO薄膜の作製 昨年度開発したIBSプロセスを用いて、さらなる高品質BFO薄膜の作製を試みたところ、第一原理計算で150μC/cm^2以上の巨大残留分極が示唆されている、巨大c/a比を有するBFO相が確認できた。また、これまでの報告例では格子定数の小さいLaAlO_3、YAlO_3単結晶基板上で主に確認されていたが本研究においてSrRuO_3/SrTiO_3基板上でも形成されることを世界で始めて明らかにした。 2. 巨大c/a比を有するBFO薄膜の特性評価 作製した巨大c/a比BFOのドメインスイッチング特性および圧電性を圧電応答顕微鏡を用いて評価したところ、ドメインの反転が確認でき強誘電性を有していることが確認できた。しかしながら圧電性は小さく21pm/V程度であった。また、微細構造とドメイン構造を確認するためにHAADF-STEM像を観察したところ、ペロブスカイト構造が確認でき、巨大c/a比BFOが形成されていることが確認できた。また、基板/薄膜界面付近は菱面体晶BFOが形成されていることも確認でき、菱面体晶BFO-巨大c/a比BFOの新規ドメイン構造に起因する圧電性等の向上が期待できる。
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