研究概要 |
優れた強度・靭性バランスと良好なサイクル性を有する超微細結晶鋼は重要な研究テーマの一つになっている。組織超微細化には動的フェライト変態、動的フェライト再結晶、二相域オーステナイト逆変態などが良く利用されている。これまでに典型的な拡散変態として、フェライト変態とオーステナイト逆変態について検討してきたが、炭素拡散によるオーステナイト・フェライト熱膨張挙動とバルク結晶方位分布の関係はまだその場で評価されていなかった。 近年,飛行時間法中性子回折はきわめて有力な実験手法であり、析出、回復・再結晶、相変態などによる組織形成や引張・圧縮変形挙動などのその場評価に使われてきた。本研究では、飛行時間法中性子回折装置を用いて、マルテンサイト鋼について段階的な加熱・冷却中の構成相格子定数変化と集合組織変化をその場で定量測定した。昇温、降温中のオーステナイト・フェライト二相域中においてフェライトとオーステナイトの非線性熱膨脹が観察された。フェライトの非線性膨張は変態中に圧縮歪みが生じることを確認した。オーステナイトの非線性膨張は炭素拡散によるオーステナイトの炭素濃度変化と変態歪みに関係することを推定した。また、冷間圧縮された低合金鋼における段階的な昇温・降温中の集合組織のその場測定において、初始室温組織と最終室温組織の間に集合組織記憶効果は観察されなかったが、段階的な昇温中に形成した再結晶フェライト組織と最終室温フェライト組織の間に集合組織記憶効果が存在することを確認した。飛行時間法中性子回折法により、集合組織の記憶効果が変形蓄積エネルギーに直接関係しないことを初めて明らかになった。
|