北海道大学中川研究林において、遷移初期種(パイオニア種)であるダケカンバの温暖化に対する応答をみる野外大規模操作実験を行った。この操作実験の目的は、温暖化に対するダケカンバの応答(フェノロジー、成長、食害)を明らかにすることである。北海道北部の森林撹乱地に生える特徴を持つ樹種であるダケカンバ林に、林冠ジャングルジムを3基建設することで林冠部を直接観察できる状態にして、林冠部の枝を温暖化する実験を行った。ダケカンバ5個体の林冠部の枝の一部に農電ケーブルを巻き付けて、100年後を想定して5℃温度を上昇させた。このダケカンバの温暖化実験で得られた結果は以下の通りである。葉のフェノロジーにおいて、枝温暖化により春の展葉は5日程度早くなり、秋の落葉は10日程度遅くなった。つまり、温暖化は着葉期間が長くさせることを示している。枝伸長において、枝温暖化は8月の長枝長を増加させた。また、葉サイズにおいても、枝温暖化は長枝と短枝の両方の葉サイズを増加させたことから、温暖化はダケカンバの成長を促進させることを示唆している。一方、葉の食害において、枝温暖化は6月と8月の食害度を増加させた。分光情報から葉形質を推定したところ、CN比が低下する傾向になることが明らかになっている。しかし、この温暖化に対するダケカンバの食害反応は、ミズナラの食害反応とはまったく正反対であった。食害反応が異なる理由として、資源の成長と防御への投資戦略が樹種により異なることが関係している可能性がある。遷移初期種は成長重視戦略をとり、遷移後期種は防御重視戦略をとることから、温暖化で生じた余剰資源をダンケカンバは成長に投資して、ミズナラは防御に投資することで、最終的な成長を最大化させるようにしていると考えられる。
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