研究概要 |
本研究は,ヨシ(Phragmites australis;イネ科)の遺伝的多様性が,水質浄化機能に与える影響を評価することを目的とする。湿地生の植物は,植物体が成長する際に窒素やリンを吸収することに加え,根とその近傍に生育する多様な微生物が化学物質を分解し,植物体と併せて水質を浄化する機能をもつと考えられている。また,植物は根圏に酸素を供給することで,好気的微生物の働きを助ける。生態工学の分野では,ヨシを植栽した人口湿地を用いて,低コストで維持管理が容易な水質浄化システムの開発に取り組んでいる。しかし,植栽する植物の性質が,システムの浄化能力にどのように作用するのかは分かっていない。本研究では,湿地環境を模した小規模な実験系にヨシを植え,実験区内のヨシの遺伝的多様性が,水質浄化機能に及ぼ影響について検討する。本年は,実験を行う予備段階として,生育環境の異なる野外集団からサンプリングや,栽培環境の探索などを行うとともに,遺伝子型を区別するための遺伝マーカー(マイクロサテライトマーカー)のスクリーニングを行った。その結果,集団や生育環境・遺伝子型に応じて,植物体のサイズやフェノロジーが明瞭に異なること,遺伝子型がマイクロサテライトマーカーによって十分識別できることが分かった。また,異なる生育環境から採集した植物体を同一の実験環境下で生育させたところ,遺伝子型によって異なる環境下での生育に適応している可能性が示唆された。
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