本年度は当初の研究計画に沿って、(1)UHRF1のPHD fingerおよび、Tudor-PHD domainの構造生物学的研究を精力的に行い、さらに(2)ヒト由来UHRF1とヒト由来Dnmt1のX線結晶構造解析に向けた複合体の調製を行った。細胞の分化や発生、遺伝子発現の制御にエピジェネティクスな現象(ピストン修飾とDNAメチル化)は重要な役割をしている。本研究はエピジェネティクスに関与するタンパク質・超分子複合体の構造生物学的な研究から構造と機能の相関を明らかにし、遺伝子発現の制御機構という重要かつ根本的な生命現象の解明を目指す。 (1)UHRF1はDNAメチル化の維持とヒストン認識を介した遺伝子発現制御に関与するタンパク質である。UHRF1には2つのピストン結合モジュール、PHD fingerとTudor domainが隣接して存在している。UHRF1のPHD fingerとピストンH3との複合体の結晶化を行い、X線結晶構造解析に適した結晶の調製に成功した。亜鉛原子の異常散乱効果を利用した単波長異常散乱法でPHD-ヒストンH3複合体の立体構造を1.4Å分解能で決定した。得られた構造および温滴定型カロリーメトリー(ITC)、NMR滴定実験による物理化学的な実験からUHRF1のPHD fingerがピストンH3のArg2の修飾(メチル化)状態を認識することを明らかにした。さらにTudor-PHDが連結した状態でのピストンH3の認識機構を明らかにするためにITC実験を行なった結果、リジン9がメチル化されたヒストンH3(H3K9me3)に特異的に1:1で結合することを明らかにした。さらにTudor-PHD domainとH3K9me3との複合体結晶の調製に成功した。得られた構造からUHRF1はTudor domainの領域でヒストンH3のLys9のメチル化状態をPHD fingerの領域でArg2のメチル化状態を同時に認識していることを明らかにした。複数のピストンの修飾状態を同時に認識する機構を構造生物学的に明らかにしたのは申請者の研究が初めてである。現在、生化学的、細胞生物学的な実験を行い研究成果をまとめ国際学術誌に投稿準備中である。 (2)UHRF1は維持型DNAメチル化酵素であるDnmt1と相互作用し、その相互作用がDNAメチル化の維持に必須であることが報告されている。本年度はDnmt1のUHRF1結合領域の大腸菌での発現系を構築した。UHRF1のSRA domainとDnmt1の複合体の調製に成功し、予備的な結晶化条件の検索を行っている。今後X線回折実験に適した結晶の調製、および構造決定を行い、DNAメチル化の維持機構の構造生物学的基盤を得る。
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