mRNAキャップ付加反応(キャッピング)は、一般的に核内のみで起こると考えられているが、最近キャッピングが細胞質でも起こる可能性が示唆されてきた。キャップは細胞質での翻訳開始やマイクロRNAによる翻訳抑制に必須な構造で、その制御は遺伝子発現に重要な役割を果たす。提案するプロジェクトは、オハイオ州立大学のDaniel R.Schoenberg教授との共同研究で、新規の遺伝子発現制御機構として細胞質キャッピングの重要性を示すことを研究目的とする。まずGene STアレイとエクソンアレイを用いた解析より、細胞質においてキャップ構造を持たない完全長RNAを約4000種類同定し、その中で細胞質キャッピングされると考えられるRNAを複数同定した。現在real-time RT-PCRにより再確認を行っている。また予備的結果であるが、細胞質でキャップ付加されるRNAの3'末端がポリU化されている可能性が示唆された。近年、小分子RNAやピストンmRNAの3'末端がポリU化されることが報告されており、我々の結果は新しい事例を加えることになるかもしれない。現在、細胞質キャッピングの生物学的意義を探るため、酸化ストレス前後でのキャップ状況の変化を比較しようと考えている。 異なるプロジェクトとして、私は宿主とウイルスの関係にある大腸菌とT4ファージの生存戦略に興味を持ち、大腸菌が持つ抗ファージ作用の1つ、トキシン-アンチトキシン(TA)に対するファージの防御機構の解明を行った。まず大腸菌K12株とO157株において新規TAを発見し、それらがファージ感染により活性化することを明らかにした。またファージがもつDmdがトキシン活性を阻害することで自らの増殖を可能にしていることも分かった。以上の結果はファージがアンチトキシンを持つ、さらにそれが複数のトキシンに作用するという点において新規の発見である。
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