分裂酵母などをモデル生物としたこれまでの研究により、ヘテロクロマチンの構築メカニズムはかなり明らかになってきた。しかし、一度構築したヘテロクロマチンを長期にわたって安定に保つ仕組みについては、未だ不明な点が多い。このため本研究は、遺伝学的な解析が容易な分裂酵母をモデル生物として用い、ヘテロクロマチンの安定性およびその制御因子を明らかにすることを目的としている。平成21年度は、エラープローンPCRによってヘテゴクロマチン構築因子の点突然変異を誘導し、温度制御によってヘテロクロマチンの状態を制御できる変異体群を作成した。変異体の細胞では、低温においては遺伝子発現のサイレンシングがある程度正常に保たれるが、高温においてはサイレンシングが脱抑制される。変異体の解析の結果、温度シフト直後にサイレンシングが完全に脱抑制されるというよりも、高温で細胞分裂を繰り返すほどにサイレンシングの脱抑制め程度が上昇していく様子が観察された。ヘテロクロマチンに相互作用するHP1ファミリータンパク質はクロマチン上での交換頻度が非常に高いことが知られている。このためヘテロクロマチンは極めて可塑性の高い柔軟な構造であろうと予想していたが、今回の結果より、単にヘテロクロマチン構築因子を失活させるだけでは、発現抑制の速やかな解除は起きないと考えられる。既存のピストン修飾を積極的に保護する仕組みはエピジェネティック変換の潜在的なハードルとなる。よって、ヘテロクロマチンの安定性を保証するメカニズムの理解は、エピジェネティック制御機構を理解するために欠かせない。今回作成した変異体はヘテロクロマチンの安定性を保証するメカニズムの解明に貢献すると期待される。
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