本研究においては、食道癌細胞(Barrett食道癌、扁平上皮癌)の転移・接着・浸潤に強く関与するcadherin familyの発現パターンを解析し、N-cadherinのTumor microenvironmentに対する関係性を解明する。またN-cadherinの働きを阻害することにより全く新しいアプローチとしての分子標的治療法の開発を目指す。 まず、Barrett食道癌および扁平上皮癌の切除標本におけるcadherin発現パターンをE-cadおよびN-cadの免疫染色にて確認した。3/10例の症例においてN-cadの発現を認め、粘膜下層への浸潤のある症例においては特に腫瘍先端部での発現傾向を認めた。しかしE-cadの発現の減少は認めなかった。食道癌細胞株においては、TE4、10の2種の癌細胞にN-cadの発現を認めた。Collagen IおよびTGFにて刺激すると発現の増加は認められたが、元々発現のない細胞株においては発現をとらえることができなかった。しかしながら、刺激された細胞は形態的に変化を認めEMTを誘導されている可能性があると考えられた。また我々は、血清鉄の減少がEMTを阻害するという過去の報告を踏まえ、in vivoにて経口血清鉄を制御しまたin vitroでは鉄キレート剤を用い、食道癌において抗腫瘍効果を確認した。その際にN-cadの減少を認め癌細胞の遊走能、浸潤能の低下を確認した。食道癌においてN-cadが腫瘍増殖および癌の浸潤における重要な分子である可能性を示唆した。現在siRNAを用いてN-cadを制御した細胞を用いることによる再現実験を行っている段階である。今後としては、N-cad阻害剤を用いて新規集学的治療法の検討を行う予定である。
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