研究概要 |
細胞の活動はゲノム情報に支配されており,その正常な機能を保つために,細胞はゲノムの恒常性を保たなくてはならない.ゲノム恒常性維持において,重要な役割を果たしているのがDNA damage checkpointとDNA損傷修復機構である.DNA損傷応答(DNA damage response:DDR)の異常は,DNA damage checkpointの活性化やDNA損傷修復を妨げ,ゲノム不安定性を誘導する.ゆえに,両者の制御機構を解明することは,発癌や老化といった普遍的な生物学的医学的問題の理解に重要である.我々は,DNA損傷応答において生じるヒストンのユビキチン化に着目し,その反応を抑制する脱ユビキチン化酵素として同定していたOTUB1の機能解析を行った.OTUB1は過剰発現により,ヒストンのユビキチン化を妨げ,また,ノックダウンによって,DNA損傷時のヒストンユビキチン化を過剰に活性化した.OTUB1によるヒストンユビキチン化の抑制は,その脱ユビキチン化活性に依存しておらず,OTUB1はヒストンの脱ユビキチン化を行っていないと考えられた.我々は,OTUB1の標的を同定するため,OTUB1の免疫沈降物をマススペクトロメトリーにより,解析し,結合タンパクとしてUbc13を同定した.in vitroアッセイにより,OTUB1は,Ubc13/Uev1a依存性に起こるユビキチン鎖の形成を阻害することを明らかにした.このようなタンパクユビキチン化制御の分子メカニズムは,これまでに全く知られていなかったものであり,ユビキチンを用いたシグナル伝達の解明に大きなインパクトをもたらすと考えられる.
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