研究概要 |
DNA損傷依存性のクロマチンユビキチン化抑制因子を発見するために,我々はRNA干渉法を用いてさまざまな脱ユビキチン化酵素の発現抑制を試みた.その結果,OTUB1をノックダウンすると,DNA損傷部位におけるユビキチン鎖形成やその下流となる53BP1のDNA損傷部位への集積が長時間遷延することがわかった.一方,OTUB1を過剰発現すると,放射線照射によるユビキチン鎖形成および53BP1やBRCA1のDNA損傷部位への集積が阻害された.驚くべきことに,脱ユビキチン化酵素の活性中心を破壊したC91Sを過剰発現しても野生型を過剰発現させたときと同様に,ヒストンユビキチン化が阻害された.一方,OTUB1の脱ユビキチン活性を担うOTUドメインのcatalytic triadの変異体およびOTUドメインには含まれないN末を欠く変異体にはヒストンユビキチン化の阻害効果は認められなかった.これらの結果は,OTUB1が脱ユビキチン活性非依存性に,しかしN末および完全な形のOTUドメインに依存してヒストンユビキチン化を抑制的に制御していることを示していた. リコンビナントタンパクを用いたin vitro ubiquitination assayおよび細胞を用いた共免疫沈降実験の結果,OTUB1はDNA損傷応答において必須のE2ユビキチン結合酵素であるUBC13に結合し,その活性を脱ユビキチン活性非依存的に抑制していることが判明した.また,OTUB1の発現を抑制した状態では,DNA損傷応答の最上流遺伝子ATMの抑制によるDNA相同組換え修復の異常が回復することが示された.これらの結果から,OTUB1はDNA損傷応答を抑制的に制御し,OTUB1とUBC13の結合を阻害することでDNA損傷応答が増強されることが示された.
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