研究概要 |
平成21年度はまず細胞の形態と細胞膜の張力との間の関係を調べた。具体的には複眼細胞においてnon-muscle myosinやsmall G-proteinであるRho,Racの機能を操作し、その細胞形態に及ぼす影響を解析した。non-muscle myosinの機能を喪失した細胞は膜の張力が減少した結果、細胞の接着角に変化が見られ、また同時にadherens junctionのレベルにおいて、細胞の面積が増大した。特に後者の表現型は非常に顕著であった。この2つの表現型は膜の張力の減少から理論的に予想される表現型であり、またdminant-negative型のRhoやRacの発現を誘導した際にも同様の表現型が観察された。これらの結果は細胞の形態が細胞膜の張力と接着性によって決定されるというモデルを支持しており、非常に重要であると考えているが、同様の結果が他のグループより発表されたため(Warner S.J.and Longmore G.D.J.Cell Biol.185(6) : 1111-1125, 2009)、この時点で終了することとした。 次に組織のコンパートメント形成に興味を持ち研究を開始した。コンパートメントは生物の様々な組織に広く存在することが知られているが、その形成機構の分子的基盤は明らかでない。そこで国立遺伝学研究所で作成されたRNAi transgenic lineを用いてこの過程に関わる遺伝子のスクリーニングをショウジョウバエ系統をいくつか作成した。しかしながらこの研究に関しても他のグループから、コンパートメント形成には境界面特異的なミオシンに依存した膜の張力の亢進が本質的メカニズムであるという結果が報告された(Landsberg KP et al.Curr.Biol.19(22) : 1950-1995, 2009)。そこでこの問題に対しては今後はmyosinとhedgehogの機能をつなぐact-upやchickadeeのコンパートメント形成における機能を調べていきたいと考えている。 最後に組織内の張力/圧縮力と増殖/細胞死との間の関係を調べるためにin vitroで成虫原基を伸張させるために必要な設備をセットアップした。またin vivoで張力/圧縮力の効果を調べるための系も確立した。
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