平成22年度はまず細胞の相対サイズと細胞パターンの関係を明らかにすることを目指し、実験をおこなった。Dominant Negative型および活性化型のインシュリン受容体を複眼の一部の細胞で強制発現させ、細胞のサイズを変化させることにより、どのような変化がおこるのか調べた。しかしながら予想に反し、Dominant Negative型のインシュリン受容体を複眼において誘導しても細胞サイズには全く影響が見られなかった。同様の操作を翅など複眼以外の組織に施した際には組織サイズの顕著な減少が見られたことから、この実験系自体は正常に機能していることが示された。そこでさらにインシュリン受容体のコピー数を増やすなどして、同様の実験を再度試みたが、残念ながらやはり複眼細胞のサイズに変化は見られなかった。また活性化型インシュリン受容体を発現させた場合は、ほぼ全ての個体が死んでしまい、表現型の解析を行うことが出来なかった。今回、複眼においてこの系が機能しなかった理由は不明であるが、今後はHippo pathwayなどの他の増殖シグナル伝達系を操作することにより細胞サイズを変化させる実験を試みたい。 組織内の張力/圧縮力に関しては、成虫原基に張力を与えながら培養する系を確立した。そこでこの条件下で細胞分裂の様子を調べたところ、コントロールと比較し細胞分裂が誘導されていると見られるサンプルが存在した。しかしながら現時点ではまだサンプル間のブレが大きく結果の再現性に問題があるため、今後はさらに実験条件を詳しく検討し、張力と増殖の間の関係を明らかにしていく予定である。
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