研究概要 |
植物は時々刻々と変化する光環境に対応するため,葉緑体チラコイドに存在する光化学系タンパク質複合体(PSIとPSII)と集光アンテナタンパク質(LHCII)の結合の仕方や配置などを変換することで,効率良く光合成を行っている.本研究では,我々が生化学的にこれまでに明らかにしてきたLHCIIの配置換え(ステート遷移)に伴うタンパク質間相互作用の変化を生体内で可視化するため,コケ植物ヒメツリガネゴケ(P.patens)を用いた葉緑体イメージング技術の開発をを目的としている. 前年度までにP.patensの形質転換体作成法と顕微鏡の観察などの条件検討を行った.今年度は,P.patensの葉緑体ストロマ領域にGFPを強制発現させた変異体(StGFP-OE)の作成に成功した.これまで生体内では,クロロフィルの自家蛍光によるぼんやりとした像しか得られなかったが,StGFP-OE株を用いることで,ストロマ領域の空間とチラコイド膜の境界が明確に区別することができた.更にアンピシリン投与によって巨大葉緑体を形成させることで,チラコイド膜の構造が明瞭に観察することができ,今後チラコイド膜の構造変化のリアルタイム観察への活用が期待できる. また,P.patens特有のLHCIIであるLHCB9にGFPを融合させた変異体(LHCB9-GFP)の作成に成功した.LHCB9-GFP株は,生体内の葉緑体チラコイド膜タンパク質にGFPを融合した最初の例であり,これまで全く分からなかった生体内でのLHCIIの挙動などリアルタイムによる動態解析が可能になると期待できる. 本研究によって,コケ植物ヒメツリガネゴケの巨大葉緑体を用いた生体内での光合成関連タンパク質の可視化に向けた基盤を整えることができた.
|