研究概要 |
近年,地球温暖化の影響とも考えられる異常気象によって,干ばつ害が多発しており,コムギの生産に大きな被害を与えている.このような供給の不安定化の一方で,インドや中国の人口増加に伴い,コムギの需要は,今後ますます増加すると推定される.コムギの安定供給のためには,厳しい土壌乾燥環境下でも,安定して収量を確保できるコムギ品種の育成が急務である. 本研究では,サーモグラフを用いてコムギ群落の葉気温較差(葉面温度と気温との差)を調査した.実験は,乾燥条件を作出するためにビニールハウス内(幅7.2m,長さ37m)で,降雨を遮断して行った.供試材料として,同程度の熟性を有するが,乾燥抵抗性の異なる6品種の春播き性普通コムギ(Triticum aeslrvum L.,2n=6x=42)を用いた. サーモグラフにより撮影した熱画像には,コムギ群落と土壌の熱画像が混在している.そして,コムギ群落の一部と土壌とは温度に大きな差異がないため,両者の区別は困難であった.これは,群落葉面温度の正確な測定を妨げる最大の要因であった.そこで,保冷剤を載せた移動式トレイを土壌に置いて熱画像を撮影することにより,群落の熱画像と保冷剤の熱画像とを明確に区別にすることに成功した.この手法を用いて実験を行った結果,コムギ群落の葉気温較差には品種間差異が認められた.そして,生育期間を通じて群落温度が高い品種では,幼穂形成期を含む生育前期において,植物体内で乾燥ストレスを受けていた可能性が示唆された.これにより,この品種では,小穂の分化を充分に行うことができず,一穂粒数が減少して,子実収量が低下したと推察された. このように本研究の結果は,コムギ遺伝資源における乾燥抵抗性の評価が可能であり,干ばつ害が深刻な地域でのコムギの乾燥抵抗性育種への利用が期待できる.
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