研究概要 |
環境ストレス下で、食中毒原因菌を含む様々な細菌は生きてはいるが培養できない(Viable But Non-Culturable, VBNC)状態に陥る。VBNC状態の細菌は通常の培地で増殖しないが、生命活動を維持している。そのため、VBNC状態の細菌は培養による通常の細菌検査では検出できず、VBNC状態の病原性細菌の食品への混入は食品衛生上非常に重要な問題である。しかし、細菌がVBNC状態に陥る分子基盤は分かっていない。本研究は、Salmonella Typhimurium LT2株、S.Oranienburg株、S.Dublinを用い、VBNC状態への移行における、ストレス応答関連シグマ因子RpoS(σ^<38>)の役割の解明を目指した。rpoS遺伝子に変異を持つSalmonella Typhimurium LT2株とS.Oranienburg株は、野生型RpoSを持つS.Dublin株に比べ、塩ストレスによってすみやかにVBNC状態に陥った。LT2はalternative initiation codonのTTGで始まるrpoS遺伝子(rpoS^<TTG>)を持ち、他の2株に比べRpoS発現量が少なかった。Oranienburg株は非常に保存性の高い領域にミスセンス変異(D118N)を持っていた。△rpoS株は親株に比べ、よりすみやかにVBNC状態へ誘導された。△rpoS株で野生型RpoSを発現すると、VBNC状態への移行が遅れた。しかし、RpoS D118Nでは移行の遅れはわずかであった。以上の結果から、RpoSはVBNC誘導を遅らせることが示された。LT2株は変異によるRpoS発現量の減少のため、Oranienburg株はD118N変異がRpoSの機能に影響を与えるため、これら2株は野生型RpoSを持つDublinに比べ、すみやかにVBNC状態に誘導されると推測される。
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