研究概要 |
ポリアミンは、ほぼすべての生物に存在しており、細胞分裂やDNAの複製、タンパク質の合成促進などの細胞内の過程や、各種ストレス適応などにおいて重要な役割を果たしている。ポリアミンは、このように生物の存在に必須である一方、過剰に存在すると生育を阻害するため、細胞内のポリアミン濃度は厳密に調節されており、その調節機構を理解することは重要である。本課題研究では、原核生物の浸透圧ストレス適応とポリアミンの関わりについて、ポリアミン排出輸送体を中心に理解することを目的とした。本年度は、ポリアミン排出輸送体の基質輸送メカニズム解明に向け、平成21年度に開発した輸送体一分子内で起こるFRETの計測技術を用いて、ポリアミン輸送体と同じファミリーに属するABCトランスポーターMsbAの一分子観察を行った。その結果、ABCトランスポーターはATP有・無の条件下で、複数(2-3)の構造を持つことが示唆された。また、ATPアナログを用いて蛍光強度の変化を観察し、ATP加水分解と構造変化の相関を解析した。難分解性のATPアナログの添加では蛍光強度に変化が見られなかったことから、ABCトランスポーターはATPとの結合ではなく、加水分解により初めて構造変化を引き起こすことが示唆された。さらに、ラン藻におけるポリアミン生合成経路の解明に向け、アルギニン脱炭酸酵素の破壊株の高塩濃度培地における生育を観察した。その結果、ラン藻は塩ストレスにより細胞外多糖を生産して、菌体を塩ストレスから保護していることが分かった。また、アルギニン脱炭酸酵素(ADC1,ADC2)の破壊株は、塩ストレスの無い条件下でも細胞外多糖を生産したことから、ADC1,ADC2の細胞外多糖生産制御への関与が示唆された。
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