原油を分解しメタンを生成する油田内の未知微生物共生系に関する基礎的知見を得るため、原油生分解が見られる油田から採集した微生物試料に関して、含まれる微生物の群集構造と原油を基質としたメタン生成活性を解析した。 山形県内の油田の生産井から地層水と原油を嫌気的に採取し試料とした。原油の炭化水素成分の分析結果から、油田内で原油が軽度の生分解を受けている事が示唆された。この油田は高温域の油田に分類されるため(貯留層温度55℃)、本研究は高温油田中での原油生分解に関する初めての微生物学的解析と言える。まず、油田内微生物群の系統学的多様性を解析、アルカン分解に関わる微生物種の特定を試みた。従来、油田由来試料の微生物学的解析には試料から原油分を除いた水成分のみが供されてきた。しかし、一般にアルカン分解菌は油表面に吸着する性質を持つ。そこで原油成分からもDNAを抽出、原油分に含まれる微生物群の多様性も解析した。さらに、共生関係にある微生物群は共凝集体を形成する点に注目し、水成分中に存在する凝集体を粒子サイズに基づいて分離しDNAを抽出、共凝集体を形成している微生物群の群集構造を解析することで油田内の微生物間相互作用に関する知見を得た。原油、共凝集体中で酢酸資化性メタン菌種の優占が観察され、原油生分解が起こっている油田内生態系で酢酸資化性メタン菌が重要な役割を果たしている事が示唆された。また、地層水試料に原油、アルカンを添加し油田内温度(55℃)で培養、地層水中に含まれる微生物群のメタン生成活性を評価した。原油を添加した試料では非添加の試料に比べ活発なメタン生成が観察されたが、アルカン添加によるメタン生成活性化は見られず、顕著なアルカン分解能を示す培養系は得られなかった。以上の結果から、次年度は酢酸資化性メタン菌の油田内での共生パートナーを標的に培養を経ずに解析を行う。
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