我々は糸状菌Mortierella alpinaを用いた高度不飽和脂肪酸の商業生産に成功している。この研究過程において、脂質を菌体外に分泌する変異株を見いだした。脂質漏出性の顕在化には、旺盛な生育と細胞壁の脆弱性が必要であることがわかっており、本年度は、脂質漏出原因因子の特定、ならびに、厳密な脂肪酸生合成経路の代謝制御に必要となる遺伝子ターゲティング法の開発を行った。まず、非相同組み換えに関与するku80遺伝子の前後を欠損させたku80破壊用ベクターを構築し、遺伝子銃にて導入後、一回交差によるku80遺伝子の破壊を試みた。結果、PCR法により左ku80遺伝子の破壊を確認することができた。本結果により、低い頻度ながらも一回交差での遺伝子破壊が可能であることを示せた。続いて、本破壊株をホスト株とし、△5不飽和化酵素遺伝子の破壊により脂肪酸組成の改変を試みた。しかしながら、相同組み換え頻度の向上は確認できず、本菌においてはku80遺伝子が有効ではない、あるいは、一回交差の相同組み換えを利用しているため、培養中に脱落している可能性が示唆された。また、ku80遺伝子と同様に非相同組み換えに関与するlig4遺伝子をRNAi法により、発現抑制を促し、相同組み換え頻度の向上を検討したが、有意な結果は得られなかった。いずれの試みにおいても、2回交差により安定した破壊株の構築が必要であることがわかった。一方で、複数の遺伝子の影響の評価には複数のマーカーが必要となり、そのための多重栄養要求性変異株の取得を行った。ウラシル要求性株の胞子に対しUV照射を行い、生育したコロニーを最少培地にて評価した。結果、ウラシルと各リジン、ロイシン、メチオニン、ヒスチジンの二重の栄養要求性を示す変異株の取得に成功した。今後、相補実験によるマーカー遺伝子の構築を行うことで、複数の遺伝子の評価に利用できるホスト株の構築が可能であることを示せた。
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