多核単細胞性緑藻であるハネモBryopsis plumosaは、藻体が損傷を受けた際、海水中に流れ出た細胞内容物が自然に凝集してプロトプラストを形成した後、元と同様の藻体へと成長する細胞再構築現象を示す。本年度は、蛍光タンパク質-ルシフェラーゼ融合タンパク質をコードする配列の上流に植物用プロモーター(カリフラワーモザイクウイルス35S(CaMV35S))を組み込んだベクターを用い、細胞再構築現象により生じたプロトプラストを対象としたポリエチレングリコール(PEG)法およびパーティクルガン法による遺伝子導入を試み、外来遺伝子の発現を経時的に蛍光顕微鏡またはルミノメーターで観察した。しかしながら、両手法ともに外来遺伝子発現が検出されなかったことから、植物用プロモーターは藻類では機能しない可能性が示された。次に、ハネモ内在性転写調節領域により制御される発現ベクターの構築を目的とし、構成的に発現する翻訳伸長因子elongation factor 1 alpha (EF1a)遺伝子のプロモーター領域のクローニングを行った。まず、ハネモ藻体より全RNAを抽出後、mRNAを精製し、完全長cDNAを調製した。同cDNAを鋳型にハネモ属他種由来EF1aの既知部分塩基配列から設計したプライマーを用いてRapid Amplification of cDNA Ends (RACE)法に供し、ハネモEF1a全長塩基配列を決定した。得られた塩基配列から新たにプライマーを設計し、別途ハネモ藻体から抽出したゲノムDNAを鋳型にinverse PCR法を行うことでハネモEF1aのプロモーターを含む領域の獲得を試み、約3kbpの増幅産物が得られた。今後、同領域により制御される発現ベクターを構築する。一方、in vitro転写により蛍光タンパク質をコードするmRNAを調製し、先と同様にして導入後、蛍光を指標として外来遺伝子発現の有無を調べたが、明確な蛍光発現は観察されなかったことから、外来遺伝子が効率よく翻訳されていない可能性が示された。今後、ハネモにおけるコドン出現頻度を解析し、外来遺伝子のコドンを最適化するなど、翻訳レベルを対象とした改変の必要性が考えられた。
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