研究概要 |
(1)マダニにおけるオートファジーのモニタリング法の開発:抗マダニAtg8/LC3(HlAtg8)抗体を用いたウエスタンブロット法では、他生物種と同様にLC3-IおよびLC3-IIに相当する2本のバンドを検出することができ、本法はマダニにおけるオートファジーのモニタリングに有用であることが明らかになった。(2)マダニオートファジーの制御因子の同定:オートファジー抑制因子として知られるTarget of Rapamycin (TOR)に着目した。TOR阻害剤をマダニに注入したところ、注入後にAtgタンパク質の発現が上方調節され、マダニにおいてもTORがオートファジーを制御することが示唆された。そこで、TOR遺伝子を単離し、2本鎖RNAを合成し、RNAiを行った。TORノックダウンマダニでは、卵黄タンパク質(Vg)をコードする遺伝子(Vg)の発現が下方調節され,TORの基質であるS6Kがリン酸化されなかった。さらに、Vg転写活性因子の発現についても下方調節された。これまでの研究成果により、吸血時にはオートファジーが抑制される一方で、TORが活性化することが明らかになった。(3)マダニの飢餓期における糖・脂質代謝の解析:オートファジー阻害剤を飢餓時のマダニに注入したところ、対照群のマダニに比べて短命であり、その注入マダニではHlAtg8の発現パターンが変化していた。このことは、飢餓時のマダニが、オートファジーを活用して栄養分の補給を行い、飢餓に耐えていることを示すものである。飢餓時には中腸内に糖と脂質が蓄積することを既に明らかにしたが、代謝とオートファジーの関連性は明らかでない。そこで、代謝調節因子の一つ、AMPキナーゼを単離した。今後は、その特性解明を行い、マダニの飢餓期における代謝とオートファジーとの関連性を詳細に解析する予定である。本研究の成果は、マダニの飢餓耐性にオートファジーが重要な役割を果たすことを世界で初めて明らかにしたものであり、未吸血時のマダニに対する防除法の開発に有用な知見であると考えられる。
|