本研究は、都市近郊二次林での遷移に伴う生物間相互作用の変化や光環境などの非生物的要因の変化に着目し、そうした環境変化が、森林の構成種の中で重要な位置を占めるコナラやシイ・アラカシなどのブナ科樹木の分散にどのような影響を及ぼすのか明らかにすることを目的としている。平成21年度の研究成果は以下の通りである。 1. シードトラップによる種子落下量と当年生実生発生の追跡から、当地域ではブナ科樹木(特にシイ)の動物による二次散布が盛んに行われていることが明らかとなった。またブナ科実生の定着率は当地域の遷移後期段階にあたる常緑広葉樹林よりも、遷移中期段階にあたる落葉広葉樹林で高い傾向が認められた。落葉広葉樹林では、サイズが小さいものほどシイ・アラカシの割合が増え、常緑広葉樹林の下生えと同じような組成になっていた。 2. シイとアベマキの堅果のネズミによる持ち去り調査を行ったところ、体積の大きいアベマキのほうが速やかに持ち去られる傾向があったが、場所によってはシイが好んでもちさられた。ネズミの体サイズにより持ち去りの嗜好性が異なることが示唆された。 3. ブナ科常緑広葉樹であるシイおよびアラカシの芽の伸長様式を調べたところ、シイは落葉広葉樹林下でアラカシよりも伸長期間が長く、暗い常緑広葉樹林下では芽の活動を休止させるものが多く見られた。こうしたことからシイは条件の良いところで素早く成長する性質をもっていることが推察された。 以上の結果、そして今年度の成果を統合すれば、それぞれのブナ科種子がどのように広がり、どのような場所で定着できるかということを定量的に把握でき、さらなる林相変化の予測が可能となるばかりでなく、都市近郊二次林の生態的管理に向けた具体的な施業指針を提案できる。
|