研究概要 |
今年度においては、子犬、病犬、ヒト(飼い主・非飼い主)及びその飼い犬のそれぞれの宿主からの大腸菌株の収集及び薬剤感受性試験を主として実施・完結しており、現在、継続して分子遺伝学的解析を実施しているところである。 子犬由来大腸菌株については、2ブリーダーの子犬の糞便から分離を行った。分離株を対象に薬剤感受性試験を行ったところ、抗菌剤の投与歴のない多くの個体で耐性菌が認められ、中には人医療上重要な耐性菌であるESBL菌やフルオロキノロン耐性菌も認められた。これらの耐性菌の分布・拡大要因の解明のためにPFGE解析により調査を行ったところ、同居飼育されている同一家系犬のみならず同時期にブリーダーに飼育されていた別家系犬において、同一クローンの大腸菌を高率に共有していることが明らかとなった。以上の結果から、子犬は抗菌剤の投与が行われていなくても生後まもなく耐性菌を獲得し、それらは同居個体等により速やかに水平伝播・維持されていることが示唆された(本結果については論文投稿準備中)。 また、病犬の泌尿生殖器由来大腸菌について薬剤感受性試験を行ったところ、第3世代セフェム系剤に対する耐性菌が多く認められた(21.8%,17/78株)。PCRの結果、これら耐性菌17株中4株はCTX-M9 groupに属する遺伝子を有しESBL型と判定された。その他の株については全てCMY2のセファロスポリナーゼ遺伝子を保有していることが明らかとなった。来年度はこれらの遣伝子の伝達性等について調査する予定である。 さらに、飼い主と飼い犬及び非飼い主の糞便から大腸菌を分離し薬剤感受性試験を行ったところ、総じて、非飼い主由来株において耐性率が高い傾向が認められたことから、犬を飼育することは必ずしも人の指標菌の耐性率の上昇につながらないことが示唆された。来年度は飼い主・飼い犬由来株の遺伝的関連性について調査する予定である。
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