申請時の計画通り、イヌの母性因子の定量化を目的とした実験1においては妊娠期から離乳までの母イヌの採尿、および出産直後からの養育行動の記録を実施した。現在解析中であるが、出産後から一週間毎の記録では、母イヌの養育行動に費やす時間の推移が個体によって異なることがわかってきた。一方、仔イヌの内分泌発達の過程を調査する実験2では、現在のところ118頭の離乳期における分離テストおよび尿中コルチゾールの測定が終了し、20年度にすでに分離テストを行っていた仔イヌ達(5胎、29頭)の成長後の新奇刺激暴露時の尿中コルチゾールの測定も実施した。その結果、現在のところ、仔イヌのストレス不応期は4週齢前後であること、7週齢までにはHPA軸がほぼ成熟すること、成長後のストレス応答性は胎によって傾向がみられることが示された。さらに離乳期におけるストレス応答性と成長後の応答性には関連がみられ、胎によって傾向が異なる可能性も示唆された。 H21年度の成果から、マウスやラットなど実験動物において示されているストレス不応期がイヌにも存在することが示され、さらにHPA軸成熟の時期がほぼ特定された。これによって従来行動でのみ評価されてきた仔イヌの発達の内分泌学的側面からの裏付けができたと考えられる。さらに実験を継続し、母性因子とストレス応答性との関連を見出だすことによって、いままであまり配慮されてこなかったイヌの初期生育環境の重要性を示すことが可能となることは、イヌの福祉向上においても極めて大きな成果であるといえる。
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